スローダウンはファッション業界の危機を救うか?

 

このコロナ渦で、労働者へのしわ寄せが各地で起きている。

ファッション業界も例外ではなく、コロナウィルスの影響で多くのブランドによる生産停止や発注キャンセルが大量に発生し、製造を請け負っている開発途上国の工場ではしわ寄せを受けており、賃金の未払いや労働者の不当な解雇が相次いでいる。(https://www.wwdjapan.com/articles/1072042?fbclid=IwAR0hvOM3gJMLzMOd9UGS3oY7_b5lgxLCj2jT0Ug8NtzZTaUJPjV3sVfTsB0)

ESG投資の分野でも、これまでになくS(社会)に対する取り組み、とりわけ労働者への配慮に注目が集まっている。

労働者へのしわ寄せを最小限に抑えようという動きと同時に、業界を本来のあるべき姿に戻そうとする動きが出てきている。ファッション業界の抱える大量生産・大量消費の課題を解決しようとする動きだ。大量生産の原因の一つは過度に短くなったファッションサイクルである。ファッション業界はもともと春夏・秋冬のコレクションで年に2回新商品が発表されるのが一般的だった。それがいつの間にか、常に新作を!となり、ヨーロッパでは2000年には平均2回だったコレクションの回数が2011年には5回、H&Mは12-16回、ZARAは年24回とここ数年で急速にファッションサイクルが短くなってきた。(https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/BRIE/2019/633143/EPRS_BRI(2019)633143_EN.pdf)

日本も同様だ。日本では、52週MD(マーチャンダイジング)が主流となって、1年間を52週に分け、毎週、商品計画、商品政策、品揃えを見直す。常に新作が入る売り場が良いとされ、1つの商品を売る寿命は短くなった。残念ながら結果的に大量消費を促進するシステムが主流となっている。生産現場からすれば、毎回納期が短く、常に効率化とスピードに追われ、超長時間労働を引き起こしやすい。現場は疲弊する。それはブランド自身の現場でも同じことが起こっている。

コロナ渦で、経済活動が制限される中、今の短すぎるファッションサイクルに疑問を呈し、本来あるべきスピードに戻すタイミングだと声をあげる人たちが増えている。良い服を時間をかけてつくる本来の姿に戻そうと。

4月にジョルジオ・アルマーニが「今回の危機は、業界の現状をリセットしてスローダウンする貴重な機会」と公開書簡を出した。

https://wwd.com/fashion-news/designer-luxury/giorgio-armani-writes-open-letter-wwd-1203553687/

それに賛同する動きが次々と起こっている。

ドリス・ヴァン・ノッテンらが、実際の季節に合ったスケジュールで商品を販売することなどを提言するウェブサイト「ファッション業界への公開書簡(Open Letter to the Fashion Industry)」を立ち上げ、クロエやトリバーチなどが賛同している。(https://www.elle.com/fashion/a32459989/dries-van-noten-fashion-industry-open-letter/) (https://forumletter.org/)


米英のファッション協議会がサイクルの見直しなどを提言した「ファッション業界のリセット(The Fashion Industry’s Reset)」を共同声明を発表した。

(https://www.theguardian.com/fashion/2020/may/21/the-fashion-system-must-change-bfc-and-cfda-call-for-an-industry-reset)


そしてグッチもファッションのスローダウンを宣言した。

「使い古されたシーズンという業界慣習を捨て去り、私の表現タイミングに近い頻度でショーを開催する。年に2回だけ集うこととし、そこで物語の新たな1章を共有する。それはイレギュラーで喜びにあふれ、完全に自由な1章だ。ルールやジャンルはブレンドされ、新たな空間や言語、コミュニケーションプラットフォームの中で発表する」

(https://www.wwdjapan.com/articles/1081393)

コロナ渦での世界規模での経済のスローダウンは、人々に多くのストレスを与えているが、大量生産・大量消費を促すために過剰に商品サイクルを早めてしまっていたファッション業界にとっては、立ち止まり自分たちのビジネスの在り方をとらえ直す機会ともなっているようだ。

スローダウンはファッション業界の抱える大量生産・大量消費の課題を解決に貢献するだろうが、具体的には誰にどのような影響があるのだろうか?ファッションサイクルが長くなれば、デザイナーは短い旬を追いかけて服をデザインするのではなく、本当に必要な要素について考えることができ、時間をかけて洋服をデザインできるようになる。縫製工場への発注、納品は余裕をもって行われるようになり、早まる納期のプレッシャーを途上国のワーカーが吸収するという構図から脱却することとなり、サプライチェーンの人権問題解決に貢献する可能性もある。不必要な生産が抑えられる事で重要な資源である水やエネルギーを資源の削減にも貢献するだろう。ファッション業界の抱える環境問題、人権問題解決につながる可能性がある

消費者の欲を刺激し、大量に消費する事を賛美するのではなく、普遍的な美的感覚、時間が経っても大事にされる服作りを見直すタイミングにきている。ファッション産業側が変化をおこそうとしている今、消費者の行動が鍵を握っている。

 
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