コロナ対策と女性リーダーシップ。資質を発揮するのに重要なのはクリティカルマスを超えている環境?

 
 

コロナウィルス対策で、女性リーダー率いる国での対応が奏功しているとの報道が相次いでいる。

例えば、VOGUEは2020年4月28日のオンライン記事「新型コロナウイルスに負けるな! 真のリーダーシップを発揮する7人の女性首脳たち。」で(https://www.vogue.co.jp/change/article/female-leaders-fighting-covid19)、女性リーダー率いる国ー台湾、ドイツ、デンマーク、ノルウェー、ニュージーランド、アイスランド、フィンランドでは、死者数が相対的に低く抑えられていると指摘している。

ForbesJapanは2020年4月16日のオンライン記事「コロナ対策に成功した国々、共通点は女性リーダーの存在」(https://forbesjapan.com/articles/detail/33831)において、女性リーダーがコロナ対策にここまでのところ成功に貢献している資質を、「現実と向き合う」「決断力」「テクノロジーの活用」「慈しみの心」にあるのでは、としている。


卓説した女性リーダーのこうした資質は賞賛すべきではあるが、政治においてマイノリティである女性リーダーがその資質を発揮するためには、一定程度以上の女性がいる環境が重要である点を指摘したい。


女性リーダー輩出に取り組む人々の間では、「クリティカルマス」が重要であるという認識が共有されている。女性リーダー比率の目標を30%と掲げるのも、30%前後がこのクリティカルマス、すなわちものごとが大きく変化する分岐点と言われていることが背景にある。


周囲に影響を与えるには一定程度の比率が重要であるという概念を提唱したのは、ハーバードビジネススクールのロザベス・モス・カンター教授だ。彼女は1977年の論文の中で、人数が少なすぎると、そのグループを代表する「トークン」とみなされてしまい影響を与えることが困難だが、35%くらいになってくるとクリティカルマスを超え、依然として少数派ではあるものの、個としてみなされるようになり、お互いに協力し合ったりして影響を与えることが出来てくると主張した。


IMDのギンカ・トーゲル教授は、「女性が管理職になったら読む本」の中で、女性がトークンであることの弊害を具体的に解説している。たとえばある会議で、女性が1人だけだった場合、彼女が何か発言すると、まわりの男性は「これが女性の考え方だ」「これが女性の振る舞いだ」というようにその女性の発言を一般化してとらえてしまう傾向にある。もちろんそれは誤った捉え方であり、女性のなかにもさまざまな考えを持つ人がおり、一人ひとりまったく違うにもかかわらず、女性がトークンだと、そうした事実は忘れ去られ、女性とはこういうものだといった誤解をしてしまう。さらに、トークンとなる女性も、自分が女性全体を代表していることに対するプレッシャーを感じて、その結果、ますますためらいが大きくなり、過度に慎重な行動をとるようになる。たとえば、会議の場で、質問すべきかどうかをさんざん悩んだあげく、結局、質問しなかった、などということも起こるという。それを見たまわりの男性たちは、トークンが引き起こした現象を正しく理解せずに、「会議に参加しているのに何も発言しないなんて……」などと誤解してしまうという。


クロード・スティールの「ステレオタイプの科学」によれば、「クリティカルマス」とは、 学校や職場 など特定の環境で、少数派が一定の数に達した結果、その人たちがもはや少数派であるがゆえの居心地の悪さを感じなくなることである。同書では、アメリカの最高裁判所の初の女性判事になったオコナーに触れ、2人目の女性判事キングスバーグが加わった後は、それまでの「女性だから」という余計な注目からのプレッシャーも低下し、クリティカルマスが達成され、ストレスと重圧が低下した、天と地ほどの差があった、としている。クリティカルマスを超えたが故に、「女性は●●だ」「女性だから●●だ」といったステレオタイプから解放されたのだ。


このように、女性リーダーがその資質を存分に発揮するには、一定数の女性比率の確保が大前提なのである。それが故、女性リーダー輩出に熱心な国々は、ポジションに女性を登用するだけでなく、全体としての比率が高まるような取り組みを行ってきたのだ。


今回の大活躍の女性リーダーを取り巻く環境はどのようになっているのかを見てみると、多くの国で一定数以上の女性国会議員・閣僚が存在している。クリティカルマスを超える比率はどこかにはもちろん議論の余地があるが、多くが30%を超えているのは注目に値しよう。

女性リーダーとして注目は浴びる場面はもちろんあろうが、「女性だから」ということで過度に萎縮せざるを得ない環境ではなかったことが推測される。その結果として、女性リーダーがその資質を存分に発揮できたのではないか。資質だけではなくその環境も重要なのである。

国会議員・閣僚の女性比率

 
 

(※1)WEF「Gender Gap Report2020」より

(※2)UN Women「Women in ministerial positions」より。括弧内は190カ国中の順位を示している

(※3)黄長玲(2019)より、2015年時点

そして、特に着目したいのは台湾だ。台湾は、1990年代には10%程度だった国家議員の比率を、20年かけて30%超にまで伸ばしてきた。国をあげてジェンダークオータ制に取り組んだ結果である。女性リーダーの資質が素晴らしかったのは言うまでもないが、そうした女性リーダーが活躍できる環境を長年かけて整えてきた点には注目に値しよう。

一方で、日本はどうか?国会議員の男女比率も、閣僚の女性比率もこれらの国には及ばない。今回の一連の今回の件から、優れた資質を持つリーダーを任命することが重要だけでなく、そうしたリーダーが活躍できる土壌づくりが重要である点を教訓にしたい。

そして、最後に。女性リーダーの活躍が著しいと、どうしても「女性リーダーは●●だ」、とステレオタイプ化しがちだ。ただ、女性比率が低い中でそうしたステレオタイプ化は、当人に過度なプレッシャーを与えてしまうことになり、良い結果を生まない。男性リーダーは●●だ、と言わないように、安易なステレオタイプ化は避けていきたい。




参考資料

Claude M. Steele(2011). Whistling Vivaldi: How Stereotypes Affect Us and What We Can Do. W. W. Norton & Company. (クロード・スティール.藤原朝子 ・北村英哉(訳)(2020). ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか. 英治出版株式会社)


Gender Gap Report

http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf


Kanter(1977). “Some Effects of Proportions on Group Life: Skewed Sex Ratios and Responses to Token Women” American Journal of Sociology Vol. 82, No. 5 (Mar., 1977), pp. 965-990


Women in ministerial positions

https://www.unwomen.org/-/media/headquarters/attachments/sections/library/publications/2020/women-in-politics-map-2020-en.pdf?la=en&vs=827


黄長玲(2019). 台湾におけるジェンダークオータ―その経験と影響分析

http://www2.igs.ocha.ac.jp/wp-content/uploads/2019/05/1.pdf


ギンカ・トーゲル(2016).  小崎亜依子・林寿和(構成・訳)「女性が管理職になったら読む本」. 日本経済出版社



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