知りたい!が変える。ファッションの未来。

 


ファッション業界は、成長産業である一方、地球環境への負荷や人権問題とも関係が強い産業だ。

 国連貿易開発会議(UNCTAD)によれば、ファッション業界は、世界第2位の汚染産業であり(UN News [2019])、毎年、約500万人の人々が生活するうえで必要な水の量に相当する930億立方メートルという膨大な量の水資源を消費。さらに、毎年、約50万トンものマイクロファイバー(ナイロンとポリエステルから作られる合成繊維の一種)が海洋に投棄されている。これは、石油300万バレルに相当する。ものすごい量だ。

  洋服の製造は自動化が難しく労働集約的であるため、労働賃金が安い国での生産が主流となっている。ローカルな工場は、グローバルなファッション企業の幾重にも連なるサプライチェーンの一端に組み込まれており、徹底した効率化の下で強制労働や児童労働などの、いわゆる「現代奴隷」が発生しやすい構造にある。現代奴隷について調査を行うオーストラリアの人権団体Walk Free Foundationによれば、現代奴隷に関与する産業の第二位がファッション産業だという(Walk Free Foundation[2018])。現代奴隷とは、強制労働、債務労働、強制結婚、人身売買などを含む包括的な用語であり、暴力・脅し・権力の濫用などにより「拒否できない」「逃げられない」状況に置かれ、搾取されている人々のことをいう。

 

 消費者は自分の好きな服を着ているだけなのに、環境汚染や人権侵害に加担しているなんて、とても信じられない現実だ。

 ただ、こうした状況を改善するために、洋服を着なければいいのだろか?買わなければ問題は解決するのだろうか?そんな単純な問題ではないかもしれないし、そもそも好きなブランドの洋服を着ておしゃれを楽しむことも、私達の生活にとって重要な意味を持っている。絶対正義だけでは息苦しいし、誰か悪者がいてこういう状況になっているわけでもない。

 じゃあどうすればいいのか?

どのようなサプライチェーンを有し、そこでの環境問題、人権問題をどのように解決しようとしているのかといった情報をファッションブランドが開示していくことが第一歩になるのではないか?

 実際、グローバルなファッションブランドは、2013年のバングラデシュの首都ダッカで起きた縫製工場が入る商業ビル「ラナ・プラザ」の崩壊事故(1100人以上が死亡)をきっかけに、情報開示を積極的に進めてきている。今月の24日は事件が起きてからちょうど7年になる。

ラナ・プラザ事故の責任は、発注元のファッション企業にもあるとみなされ、グローバルなファッション企業の製造工程における責任および情報開示を求める動きが強くなり、それに対応する形で各社は情報開示を進めてきた。

 2013年にイギリスで発足した非営利組織のFashion Revolutionは、製造工程における透明性向上を目的として、毎年グローバルの主要ファッションブランド200を対象に調査Fashion Transparency Index(ファッション透明性インデックス)を発表している。同インデックスによれば、1次サプライヤーの情報を開示しているブランド数は、2017年は32だったが2019年は70にまで増加(Fashion Revolution[2019])。これまで、サプライヤーに関する情報は重要な企業秘密とされてきたが、消費者からの新たな「要請」を受け、今日では製造工程における責任、すなわち環境負荷軽減および人権問題に加担していないことの証明として、サプライヤーに関する情報を開示する企業が増えてきたのである。

 グローバルなブランドは、ソーシャル・オーディタ―(社会的監査人)を用いて、サプライチェーンの環境・人権監査を積極的に行い、その情報を開示している。自社でこうした人を雇用する場合もあれば、外部の監査機関に外注する場合もある。

 ソーシャル・オーディットとは社会的責任監査と言われ、いわゆる二者監査 の一種である。サプライヤーを対象とし、責任ある企業としてどう行動すべきかが書かれた「行動規範」を、委託先であるサプライヤーが遵守できているかをチェックする。確認する項目は給与や福利厚生、労働時間などの労務や、強制労働、職業選択の自由などの人権、工場の廃棄や排水、薬品の取扱いやエネルギー使用量などの環境、機械の取扱いや安全な作業環境、作業場、食堂・寮などの労働安全衛生、そして企業全体のマネジメントシステムまで多岐にわたる。

 世界では消費者の要請に応える形で情報開示が進んでいるが、日本の状況はどうかといえば、サプライチェーンの情報開示は限定的で、ソーシャル・オーディットを採用している企業も少ない。多くの人がSDGsに関心を寄せるようになってきた今、ファッションブランドもサプライチェーン末端の状況を把握し、多くの情報を開示をして欲しい。現代奴隷の問題は、他国の問題ではなく、日本でも外国人実習生を中心に問題が多くある。適切な情報が開示されれば、消費者の選択肢も広がる。

  でもこれは企業だけの問題ではない。なぜ日本のブランドの取り組みが遅れているのかといえば、その要因の1つには情報開示を求める消費者が少ないことがあるからだ。

 ラナ・プラザ事故の翌年から、毎年4月中旬に世界中で、ファッション業界の在り方を問い直すムーブメント「Fashion Revolution(ファッションレボリューション)」発のイベントが世界中で開催されている。もちろん日本でもこのイベントは展開されているが、認知度は諸外国に比べると低い。

  情報開示を待つのではなく、まずは好きな企業やブランドがどんな行動を取っているか調べてみよう。そしてそうした情報が開示されていない場合は、企業に「このブランドが好きだからもっと知りたい」「改善してほしい」と声を届けてみよう。そうした1人1人の一歩が、大きな動きになると信じている。好きなブランドが長く大切に着られる服を販売するだけでなく、環境問題改善に取り組み、そこでのサプライチェーンの人はみないきいきと働く、そんな未来を創りたい。

  参考資料

Fashion Revolution. (2019) “Fashion Transparency Index 2019”

UN News. (2019) “UN launches drive to highlight environmental cost of staying fashionable” https://news.un.org/en/story/2019/03/1035161, (参照2019-11-03)

Walk Free Foundation. (2018) “Global Slavery Index 2018”



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<ソーシャル・オーディット基礎講座>第二期募集

KSIオンラインイベント『ソーシャル・オーディット(社会監査)とSDGs達成に向けて必要なこと 』

 
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