イノベーションの源泉であるスタートアップに学ぶ
今回のFuture Topics分科会の講師は、東京大学のスタートアップ支援組織「FoundX」のディレクターをされている馬田隆明さん。馬田さんの大学時代のバックグラウンドはコンピューターサイエンスとのことですが、学生自体は論文を読み漁り、またAIの研究を突き詰める中で哲学研究にも没頭されていったそうです。こうしたエピソードからも垣間見られるように、社会科学から哲学に至るまで、幅広い分野の学術研究に精通されており、『様々な分野の第一線のスペシャリストやアカデミアがいま注目している「実際の現象や事例」「データやエビデンス」「学術研究の成果」をもとに理解を深め議論する』というFutureTopics分科会のコンセプトをまさに体現したようなお話を伺うことができました。
さて、そんな馬田さんの講演内容は「逆説のスタートアップ思考」。多くの人が、スタートアップが成功するために必要だとイメージするようなこと―――例えば、「合理的なアイデアが必要」「競争に勝たなければならない」「優れたアイデアを考える必要がある」等々―――。こうした一見すると正しそうなイメージとは裏腹に、現実はほぼ真逆であることを具体的なエビデンスや事例を交えながら、わかりやすく解説されました。先ほどの例で言えば、「スタートアップとして成功するアイデアは、一見すると“不合理”なアイデアである」「競争はできるだけ避け、独占を目指すべきである」「優れたアイデアは“考える”のではなく、“気づく”ものである」といったことが、短期間で急成長を目指すスタートアップにおいては真理だというのです。
ただし、あくまで、スタートアップにおいて真理であるという意味であり、いわゆる大企業のような会社組織には必ずしもあてはまらないといいます。なぜなら、一般的な会社組織における意思決定は合議制であり、新しい企画を決めるような場面では、数量的なエビデンスが求められることが多いからです。たとえ将来巨大なビジネスに成長するアイデアであったとしても、多くの人から見て一見不合理に見えるアイデア、数量的にその可能性を示すことが難しいアイデアは、一般的な会社組織では企画が通りにくいといいます。「大企業から良いアイデアが生まれない」のではなく、「生まれはするけれども、アイデアを選別する過程で死んでいく」という指摘にはハッとさせられるものがありました。
これからの大企業の取るべき戦略は、いかに良いスターアップと手を組んでいくかになっていくといいます。確かに、変化が大きく不確実性が高まっている現代社会においては、一般的な会社組織であっても、日々の仕事におけるルーチンワークの割合が減少し、前例のない新しい仕事に次々と取り組んでいく場面が増えていると感じています。そうした中、多くの企業においては、自前主義を捨て、外部の組織や人材とうまく連携しながら、しなやかに、かつスピード感をもってビジネスを進めていくことが求められていると思います。馬田さんが今回話してくださった「逆説のスタータップ思考」は、いまスタートアップに取り組んでいるか否かに関係なく、多くの企業で経営層から若手層まで皆が知っておくべきこと、常日頃から意識しておくべきことだと強く感じた次第です