サプライチェーンの構造

サプライチェーンの構造はTier 4の原材料サプライヤー から始まり、段階を経て、ブランド(Tier 0)に至ります。ここではその各段階(Tiers)について説明します。

Tier 4:原材料サプライヤー(サブ・サプライヤー)

原材料サプライヤーとは、製品の第一次生産段階で使用される材料、物質、または商品を生産する人・団体のことです。これは、商品開発における一番最初のステップであり、サプライチェーンのはじまりの段階です。例えば、金の採掘業者や、皮革、カシミア、綿、絹の農家などがここに含まれます。


Tier 3&Tier 2:原材料加工・副資材サプライヤー(サブ・サプライヤー)

サプライチェーンの Tier 3 と Tier 2 は、それぞれ原材料加工サプライヤーと副資材サプライヤーを指します。どちらもブランドのサブ・サプライヤーであり、加工された原材料(加工された繊維、糸、なめし革など)やその他の資材(刺繍、金属仕上げなど)をブランド直接のサプライヤーに提供しています。


Tier 1: 製造サプライヤー(ダイレクト・サプライヤー)

Tier 1のサプライヤーは、ブランドの最終的な製品を生産するサプライヤーのことで、製造サプライヤー、最終組立サプライヤー、またはより一般的には直接のサプライヤー(ダイレクト・サプライヤー)と呼ばれています。


Tier 0:ブランド(クリエイティブ、運営、物流、小売)

ブランドはサプライチェーンの重要な意思決定者であり、ブランドのために直接または間接的に働くすべての利害関係者が、価格、品質、倫理、持続可能性の要件といった面において、ブランドの利益のために行動していることを確認できる状態が理想的です。


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サプライチェーン全体の課題

ラグジュアリーファッションのサプライチェーンにおける段階について紹介しましたが、ここでは利害関係者に共通する課題について考えてみましょう。

Tier 4:原材料サプライヤー(サブ・サプライヤー)

原材料サプライヤーは、農業や畜産の季節的な特性(例:羊毛の剪断時期、綿の収穫時期)や、大量発注がない限り生産に手間のかかる特別注文(例:リサイクル合成繊維)による厳しい時間の制約を受けます。したがって、サステナブルな原材料は常に需要に応じて入手できるわけではなく、新しい原材料の調達を既存のサプライチェーンに統合するには、時間と事前の計画、そしてコミットメントが必要になります。さらに、よりサステナブルな原材料の生産方法を特定し、開発するには、かなりの時間と投資が必要になり、サプライヤーは従来のビジネスモデルや農法を変えなければならない場合があります。例えば、オーガニックコットンは財務面や健康面での改善が見込まれるとはいえ、オーガニックコットン農法への移行期間に3年、さらに教育・認証取得のための金銭的な投資が必要であり、投入コストの低下や財務状況の改善などのメリットを実感するまでには、コットンの収穫量の低下を経験することになります。

この段階では原材料サプライヤー自身だけでなく、上流のサプライヤーやブランドを含む、サプライチェーン内の複数の関係者の長期的なコミットメントが必要です。このような原材料サプライヤーは、結局のところ自分たちだけでシステムを変えることはできません。なぜなら、彼らの生産は市場の上流のサプライヤーやブランドからの需要と本質的にリンクしているからです。

Tier 3 & Tier 2:原材料加工と副資材サプライヤー(サブ・サプライヤー)

従来、原材料の加工や副資材の生産は、大量の水、エネルギー、化学物質などが必要であることから、この段階の環境への影響は大きいとされています。例えば、原綿を糸に加工する場合、エネルギーと水を消費するため、大気汚染、温室効果ガスの排出、水質への悪影響を引き起こします。また、貴金属を加工する場合、抽出や精錬工程で使用される化学物質は、水質汚染に大きな影響を与えます。

Tier 4と同様に、加工・製造方法の改善には利害関係者の協働が必要です。Tier 2とTier 3のサプライヤーは、それぞれのサプライヤー(Tier 4)、顧客(Tier 1)、ブランド(Tier 0)と協力して、ブランドの品質、納期、その他の要求を尊重しながら、よりサステナブルな方法を模索する必要があります。これらのアクションは、LED照明への切り替えなど短時間、低コストでできるものから、金属を使用しないなめし工程の開発や、染色工程での有害化学物質の段階的な廃止などの長期的なプロジェクトまで多岐にわたります。

さらに、加工された繊維、糸、最終的な生地や部品を生産しているサプライヤーは、自分たちの生産のための原材料を購入していることが多く、トレーサビリティ、透明性、原材料のよりサステナブルな調達を確保するためのサプライチェーンの重要なリンクとなっています。サプライチェーンにおけるこれらの関係者は、最終的な製品のサプライヤーやブランドが求める製品に適した素材を用意するために、よりサステナブルな代替素材の調達を追求し、それに投資することを厭わない姿勢をもつ必要があります。同時に、こうしたプレーヤーは、価格競争、高い品質の確保、多くの選択肢や速い転換といった市場からのプレッシャーに直面しており、こうした市場環境は、時間や投資、コミットメント、計画づくりを必要とするサステナブル調達に取り組むには難しい環境を作り出しています。同時に、これらの関係者は以下のような課題に直面しています。

典型的なビジネスモデルでは、素材サプライヤーはブランドに多種多様な素材を提供するとともに、色や品質、糸や生地の種類を変更したいという急な要求にも応えるために、常に在庫を確保しています。しかし、市場全体からの大きな需要がなければ、通常より高価であるサステナブルな原材料を在庫としてもつことは、多くの素材サプライヤーにとってリスクの高いビジネス提案です。したがって、よりサステナブルな素材の使用に移行する際、ブランドは素材の選択と数量に関する予測可能性を高めるために、複数のシーズンに渡って使える素材(生地や糸)をターゲットにすることが簡単かもしれません。

Tier 1:製造サプライヤー(ダイレクト・サプライヤー)

製造サプライヤーは、顧客(ブランド)の要求を満たすために、下流のサプライヤー(Tier 2、3、4)が何を提供できるかに大きく左右されます。Tier 1のサプライヤーに直接関与しない限り、ほとんどのブランドと製造サプライヤーは、生産材料をTier 3から選択しているため、Tier 1での主なサステナブルに関する課題は、製造段階でのサプライチェーンの信用性を守ることや、廃棄物、リサイクル、エネルギーまたは社会問題の管理となります。

Tier 0: ブランド(クリエイティブ、運営、物流、小売)

しかし、サプライチェーンは関心の異なる、また競合し合う複数の利害関係者によって構成された複雑なシステムであり、多くの場合、ブランドは直接のTier 1サプライヤーしか把握しておらず、間接的なサプライヤー(Tier 2、3、4のサプライヤー)との接触が限られていたり、全くない場合もあります。ファッションブランドの場合、ビジネス自体がシーズン、年、デザイナーによって変化することがあるため、サプライチェーンはさらに複雑です。素材の選択は昔から創造性、美学、品質、価格に基づいて行われており、サステナビリティは主要な考慮事項ではないことが多いのです。

サステナビリティをファッションビジネスに統合するためには、ブランドは、綿花畑からクリエイティブスタジオ、店頭に至るまで、サプライチェーンの透明性と関係者の協力を最大限に高める必要があります。ブランドにとっての最初のステップは、直接・間接業務を含むサプライチェーンを調査し、どこで最も大きな影響が発生しているのかを理解し、どこに変化が必要なのかを特定することです。ケリングがEnvironmental Profit & Lossで行っているように、サプライチェーン全体を継続的に評価し、モニタリングすることで、ブランドは自社のオペレーションと製品が可能な限り持続可能なものであることを保証するための対策を講じることができます。また、ブランドは直属サプライヤーに質問をして透明性を高めたり、よりサステナブルな代替品を要求したりすることで、サプライチェーンに圧力をかけることができます。


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