ファッションを通して想いが循環するエコシステムを。「E組 from Enter the E」

イギリス発グローバルファッションコンテスト「Fashion Values Challenge」の日本ファイナリスト3名が決定!今回は、ファイナリストの1人であり、日本のエシカルファッションにおける新しいエコシステム構築を目指し、「E組」というモニターコミュニティを立ち上げた「Enter the E」代表の植月友美さんを取材しました。

 

Enter the E 代表取締役/エシカル改革家 植月友美さん

 

18歳からファッション業界に入り古着のバイヤーなど経験。グローバルビジネスを学ぶため渡加、渡米。COLLEGE卒業後 NYで就労を経験、帰国後日本の大手小売企業でバイイング、商品企画、商品開発、マーケティングなど担当。2009年、杜撰なファッション業界の環境破壊を目の当たりにし、人や地球に迷惑をかけずに洋服を楽しめる社会をつくること決意。 人生をかけて、「地球と人が洋服を楽しめる社会の両立」の実現に挑む。2019年Enter the E創業。 

「エシカルファッション」の選択肢を増やすために

 
 

植月さんは、スローファッションをテーマに、破棄率0%、消化率100%のセレクトショップを目指し、2019年に「Enter the E」を立ち上げました。これまでヨーロッパを中心としたエシカルファッションブランドのアイテムをセレクト・販売する中で、Enter the Eが掲げるミッションやバリューは変化してきたと植月さんは話します。

植月さん「これまで『エシカルな服を日本で当たり前の選択肢にする』を掲げて活動してきましたが、最近では『日本をエシカル大国にする』というミッションに変化しました。実際に事業を通して、エシカルファッションの選択肢を増やしても、本質的な衣類ロスといった問題にアプローチすることが難しいと感じてきました。」

その後、植月さんはファッション業界の構造自体に目を向けるようになり、衣類ロス問題に対しても在庫を持たずに受注生産をするなど、具体的な取り組みを模索していったといいます。

植月さん「Enter the Eを始めて4年目の今では、社会的な構造の変化に目を向けるようになりました。エシカルファッションという業界自体、生産背景のトレーサビリティに目を向けがちだと感じますが、私は消費後の『アフターチェーン』に注目しています。私は、消費後の衣類をゴミにせず、どのように社会の中で循環させていくかを考えていきたいと思っています。」

日本から発信する「エシカルファッション」の形を模索

 
 

セレクトショップとして海外のエシカルファッションブランドと協働してきた中で、植月さんは日本から「エシカル」のあり方を発信したいという気持ちになったといいます。

植月さん「Enter the Eの活動を通して海外ブランドとやりとりする中で、『日本っていいよね』と言われることがあります。実際に、壊れた陶磁器をつなげて補修する金継ぎにインスパイアされているブランドもあるんです。そうしたブランドのことを知ると、海外から見る『日本』というイメージと、実際にはあまりエシカルファッションが盛り上がっていない日本の実態との間でギャップを感じ、悔しい気持ちになりました。」

当たり前のように製品に認証をつけたり、ブランドの活動を通して途上国支援を行なったりする海外のエシカルファッションブランドの現状を知った植月さんは、2022年秋にオリジナルブランドを設立し、日本だからこそできるこだわりのあるものづくりに挑戦することとなりました。

実際に、初めて企画したセットアップのドレスにはさまざまなこだわりが詰まっています。農場から紡績工場に至るまで生産背景が透明なGOTS認証を取得したオーガニックコットンの生地を使用し、裏地やボタンなどプラスチックを使用しないなど、環境に配慮したものづくりを心がけています。また、国内の希少なデジタル捺染機を使用し、染料汚染がないようにオリジナルプリントを製作し、国内のものづくりを通して日本だからこそできる「エシカル」の形を体現していきました。

E組という小さな「社会」から、世界へ

これまでセレクトショップからオリジナルブランドでのものづくりを通して、日本におけるエシカルファッションのあり方を探究してきた植月さん。今回のFashion Values Challengeのテーマである「Society」について、植月さんは地球規模でこれからの社会を考えていると話します。

植月さん「私は『社会』とは、地球と人間と衣服の調和が取れている状態だと思っています。Enter the Eを始めた当初からそうした社会を目指したいという思いは変わっていなくて、『そのためにどうするか』を考えてきました。そのうえで、日本の風土の中でエシカルなマインドを取り戻しながら仕組み化し、世界に展開していきたいという思いが強くなっていきました。『もの』だけでなく、『人』とのつながりの循環を一緒に作っていきたいです。」

 
 

そこで、今冬植月さんは「E組」というモニターコミュニティを作り、参画するメンバーと商品企画から回収に至るまで共創・共助する仕組みをスタートしました。これまでのエシカルファッションでは生産者側からのアプローチが多かった中で、E組ではエンドユーザーである消費者も巻き込みながらものづくりをすることで、エシカルファッションの当事者を増やし、生産者と消費者の透明な関係性を目指しています。

植月さん「『E組』というコミュニティは、生産・企画・廃棄に至るまでユーザーと接点がある点が魅力だと思っています。だからこそ、E組を通して無駄のない社会・エコシステムを作りたいです。また、私たちだけでなく多くのブランドと関わり合うことで、日本全体として無駄のない社会を構築していきたいですね。」

「E組はまだ小さなSocietyですが、ここでまず自己完結したものづくりを展開し、そのやり方を日本から世界へ伝えていきたいと思っています。私がEnter the Eを始めた時、ヨーロッパや北欧のエシカルファッションブランドの先輩たちから、プロダクトのみならずものづくりの思想も教えていただきました。だからこそ、その恩返しとともに、もっと日本のエシカルファッションのあり方を見ていただきたいと思っています。」

物質的な循環だけでは、私たち一人ひとりの「心」が見えにくい。だからこそ、人と人とがつながり合う仕組みを作り、ファッションを通して心の豊かさを伝えていきたい——。そうした熱い想いを持つ植月さんのE組のチャレンジは、これからも続いていきます。