ファッションを通してオール・インクルーシブな社会を目指す。アパレルブランド「SOLIT!」【2022年日本ファイナリスト vol.3】
イギリス発グローバルファッションコンテスト「Fashion Values Challenge」の日本ファイナリスト3名が決定!今回は、ファイナリストの1人であり、ものづくりを通してサステナビリティとインクルーシブの両立を目指すアパレルブランド「SOLIT!」代表の田中美咲さんを取材しました。
田中美咲さん
1988年生まれ。立命館大学卒業後、東日本大震災をきっかけとして福島県における県外避難者向けの情報支援事業を責任担当。2018年2月より社会課題解決に特化したPR会社である株式会社morning after cutting my hair創設、代表取締役。2020年9月より「オール・インクルーシブ経済圏」を実現すべくSOLIT株式会社を創設、代表取締役CEO。世界三大デザインアワード「iF DESIGN AWARD 2022」GOLD受賞。
誰もが自分らしさを大切にできる「インクルーシブファッション」
2020年にスタートしたアパレルブランド「SOLIT!」は、障害の有無や体型に関係なく、自分の好みにあわせて部位ごとにデザインやサイズ、丈を選ぶことができるアイテムを受注生産で展開しています。
例えば、手に麻痺があったり視覚障害があったりしても着脱しやすいようにマグネットタイプのボタンにし、腕まくりがしやすいように袖の中にリブをつけるなど、当事者目線を重視したプロダクトの開発を行っています。
これまで田中さんは身体的・精神的・社会的制限によって「着たい」と思える服の選択肢が少ないという課題を感じてきた中で、SOLIT!では企画開発の段階から当事者とともにものづくりをすることを大切にしているといいます。
田中さん「SOLIT!では、インクルーシブデザインの手法を用いて『ソーシャルマイノリティ』と共に企画・開発を行っています。また、生産過程における環境負荷などの情報を公開するブランドも見られますが、私たちはさらに透明な情報を発信したいと考え、素材・染め・縫製など各工程の担当者の顔と名前を公開しています。さらに、それぞれがどのようなパーソナリティなのかを共有しあうようにし、質的にもより良いサプライチェーンの実現を目指しています。」
また、私たち「人間」にとってのインクルーシブのみならず、地球全体を配慮したものづくりも両立し、ファッションを通してサステナブルな社会にアプローチしていきたいと田中さんは話します。
田中さん「私たちは『サステナビリティ』と『インクルーシブ』を同時に実現したいと思っています。ファッション業界は関わる多くの人たちや地球環境に対して大きな影響力がありますよね。また、ファッションはもともと多種多様な人たちにとってもっと自由なものであるはずなのに、『健常者』、『男性』や『女性』とカテゴライズされ分断されていたり、標準化された体型の人や衣服にお金をかけられる人しか買えないなど、実際にはファッション自体にヒエラルキーがあると感じることがあります。だからこそ、私たちはSOLIT!のプロダクトを通して『ファッション』と『社会』のつなぎ目として、ファッションに対するアプローチを変えていきたいと思っています。」
地球環境や多様な人たちのために、「オール・インクルーシブ」な社会を目指して
田中さんは、社会起業家としてSOLIT株式会社をスタートさせた当初、社会正義を意識する機会が多かったと話します。
田中さん「活動を始めた頃は、私自身も『大企業による大量生産を止めないといけない』など、社会正義を主張しがちでした。ですが、大量生産システムもたくさんの人たちが働く機会を作ることができるなど良い点もあり、『100%悪い』ものではないとあらためて気づきました。複雑な事情が絡まっているからこそ、今はいろんな人たちを巻き込んでSOLIT!で活動していきたい気持ちが強くなってきましたね。」
実際にSOLIT!を通して、人種やセクシュアリティなどのカテゴリーに関わらず多様なメンバーとともに活動する中で、コミュニケーションのあり方も大切にしていると田中さんは話します。
田中さん「意思決定のしやすさに関しては、たしかにスキルや目指す方向性が同じ方がそのスピードは早いですが、人間って100%同じ人はいないですし、グラデーションのようなものだと思っています。だからこそ、SOLIT!の理念に共感してくださる一人ひとりの個性を大切にし、ゴールを明確に決めず方向性を合わせながらストレッチをするようにのびのびとしたコミュニケーションを大切にしたいと思っています。」
これまでSOLIT!の活動は「デザイン」や「組織経営」といった側面を評価される機会が多かった中で、今回Fashion Values Challengeを通して、SOLIT!の活動の中心となっている「ファッション」を軸に学び直し、今後何ができるか考えていきたいと田中さんは話します。
田中さん「これからも、多様な人たち、そして地球に対しても考慮する『オール・インクルーシブ』な社会を目指していきます。今後の展開としては、衣食住、教育やアート、スポーツなどさまざまな領域とコラボレーションしていきたいです。ファミリーのようなチームを作りながら、『誰とともにオール・インクルーシブな社会を実現したいのか』という想いを大切にしていきたいと思います。」
私たちの心を豊かにしてくれるファッションだからこそ、人や地球環境を考慮したオール・インクルーシブな社会を作っていくことができる——。田中さんたちの視点は、今後の社会のあり方を考えるうえで、力強い推進力となるはずです。