埼玉・秩父発。地域で循環するものづくり「REINA IBUKA」【2022年日本ファイナリスト vol.2】

イギリス発グローバルファッションコンテスト「Fashion Values Challenge」の日本ファイナリスト3名が決定!今回は、ファイナリストの1人であり、埼玉県・秩父で養蚕からテキスタイル制作、デザインまで一貫してものづくりを行う「REINA IBUKA」代表の井深麗奈さんを取材しました。

 
 

井深麗奈さん

埼玉県秩父市出身。文化服装学院卒業後、ランジェリーブランドのデザイナー・パタンナーを経て、1997年に渡仏。ヴィンテージ素材をアップサイクルしたファッションブランドを中心に活動。2014年に帰国し、地元秩父の自然、人、伝統の豊かさに触れ、2019年に秩父の伝統的絹織物を使用したファッションブランドを設立。地球の変化とともにファッションのあり方も変わっていかなければならない現代、秩父を拠点に大切なことを人と自然と共有していきたいという思いで活動中。

パリから秩父へ。帰郷して気づいた、つながりあうシルクの世界

 
 

ファッション専門学校を卒業後、東京でランジェリーブランドに勤務した経験のある井深さんは、1997年に渡仏しファッションの本場・パリでオリジナルブランドをスタートさせました。パリでは、ヴィンテージ素材やシルクの生地を使用してランジェリーを制作し、ものづくりの面白さやファッションを通した現地の人々とのつながりを体感したといいます。

その後パリから故郷である埼玉県・秩父に帰国した井深さんは、これまでのデザイナーとしての経験を生かし、秩父の地で「REINA IBUKA」としてブランドを再スタートさせました。そして、秩父だからこそできるものづくりを模索する中で出会ったのがシルクだったと井深さんは話します。

井深さん「帰国後に養蚕農家さんや絹織物の職人さんとの出会いがあり、実際に養蚕や織物工房の現場を訪問することができました。そこで、シルクの美しさのみならず、一つひとつ丁寧にものが作られていく工程に魅力を感じ、より一層シルクが尊いと感じるようになりました。養蚕農家さんが桑から育てている蚕からシルクという素材をいただいていること、そして職人さんが蚕に感謝しながら糸からものづくりをされている姿を見ると、心が動かされます。同時に、そうした美しさを多くの人に伝えていきたい気持ちにもなりました。」


地域の伝統から考える、「サステナビリティ」

 
 

秩父では、伝統的工芸品の「秩父銘仙」と呼ばれる平織の絹織物や、繭から糸繰り、織りの工程を一貫して行う「秩父太織」といった、秩父の風土に根ざした絹文化が今も残っています。その歴史は古く、2000年前の崇神天皇の時代に養蚕と機織の技術が伝わったと言われています(※1)。

今年のFashion Values Challengeのテーマは「Society(社会)」。秩父のみならず全国的に職人の高齢化や後継者不足によって養蚕や絹織物の文化の継承が危ぶまれている中で、これまで地域の中で培われてきた文化を次世代につなげていくことが重要だと井深さんは話します。

井深さん「日本人としてだけでなく、『地球人』として昔ながらの風土を残すことは、より良い社会につながっていくと思います。私自身も、秩父で今も残っているシルクという文化を通して『秩父』という社会や、養蚕信仰といった日本の風土に根ざす独特の精神文化を知ることができました。ファッションを通してそのプロセスを発信することで、昔から残っている風土がなぜ大切なのかをみなさんに考えてもらえるきっかけにしたいと思っています。」

ものづくりを通して、社会をつくる

SNSやデジタル化に伴って、作り手が表現しやすくなっている現代。そうした環境だからこそ、しっかりと作り手が誠意を持ってものを作ることが大切なのではないかと井深さんは話します。

井深さん「昔と比べて簡単にブランドを作りやすい環境になっている中で、良い点もあれど、一方で粗悪品も見られるなどさまざまな問題があると思います。最終的に消費者が良いものとは何かを理解し、地球のことも考えながらものを選択し、長く着てほしいですね。」

「同時に、自分自身が地球の一部だということを自覚しながら生きていくことが大切ですし、それを実現できるのが『秩父』という環境だと思いますね。自然に囲まれ、都会にも近い秩父という環境だからこそ、こうした大切なことに気づけたのだと思います。」

 
 

今後は、秩父太織専用に作られた繭を使用するなど、より素材からこだわってものづくりをしてみたいと話す井深さん。デザイナーという役割を超え、生産者とともに素材作りからきめ細やかなやりとりができるのは、秩父という「社会」だからこそだといいます。

井深さん「今後も、伝統をつなげていく職人さんの思いが尊重される形で活動していきたいです。私は直接生産者さんとやり取りをしているので、ものづくりに対する気持ちを共有することができていると感じています。これからも大切な人たちとともに、直感を信じて良いものを作るという気持ちを貫いていきたいと思います。」

地域に根づく「伝統文化」という先人たちの技術や思いを積み重ね、現代に編み直し、未来へつないでいく——。井深さんが実践する地域で完結するものづくりのあり方は、これからのサステナブルなものづくりの大きなヒントになるのではないでしょうか。


【参照】※1 ちちぶ銘仙館「秩父銘仙とは」